酒楽食楽 ~知多半島・名古屋行~

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盛田家が知多半島は小鈴谷の地で日本酒を醸すようになったのは寛文5(1665)年。同家が醸す『ねのひ』という銘柄の酒は、愛知を代表する酒として、愛されてきた。それから約350年を経た現在でも、『ねのひ』は健在である。そして、盛田では『ねのひ』ブランドに加えて、新たに『盛田』というブランドでワンランク上の日本酒を醸している。盛田の酒造りを支える3人のキーマンが、この蔵の歴史、現在、未来について語った。

一人目

(取材日:2014年10月10日)

盛田味の館 梶田 義之

知多で銘酒が醸されるようになった理由

伊勢湾に面した小鈴谷。気候は温暖だが、冬季は海を渡ってくる伊吹颪(いぶきおろし)が吹きつけ、気温を下げる。

「私が若い頃も、冬、鈴鹿山脈が白くなると、蔵の戸を開け寒風にさらし、蔵全体を冷やす、なんてことをしていました。あの風は、いい酒を造るために与えてくれた天の恵みなんですね」と語るのは、盛田味の館の梶田義之。彼は昭和28年に盛田に入社し、社内でも生き字引と呼ばれている。

気候のほかにもう一つ、日本酒造りのために、この地に与えられた“恵み”は水だ。初代当主、盛田久左衛門が、知多半島の丘陵地に井戸を掘り、弱軟水の良水を引き、そこから同家の酒造りが始まったとされる。梶田によると、知多半島の地下水は木曽川水系だそうで、数十km離れた木曽川から地下水系をたどって涌出する清水が盛田の酒の骨格となった。

「盛田の酒は甘口として知られていますが、これは知多の食文化と密接に関係しています。例えば、伊勢湾でとれるギマやサバフグ、ウマズラハギなどといった魚の煮付けに、甘口の酒はよく合う。知多の名物、ワタリガニも知多の名物ですが、あの濃厚なカニみそと盛田の酒はベストマッチングといえます。『盛田 無濾過吟醸 本生』は甘口というより旨口といえる酒ですが、盛田の酒の特徴である米の味がしっかり感じられる骨太な風味は健在で、この豊醇な旨味が知多の魚と好相性なんでしょうね。食と酒の相性って土地に根ざしたものだと、つくづく思います」。

“今”の盛田を象徴する酒である『盛田 無濾過吟醸 本生』については杜氏の濵嶋安伸に語ってもらうことにしよう。

※梶田は2015年6月をもって退職いたしました。

二人目

(取材日:2014年10月10日)

杜氏 濵嶋 安伸

「盛田」の酒を醸す人

盛田味の館の梶田義之によると、今、全国で“四天王”の一人に数えられるべき杜氏だそうだ。決して身内びいきの言葉ではない。全国新酒鑑評会で9年連続金賞を受賞。もちろん鑑評会が杜氏の技量を測る基準の全てではないが、1回や2回ではない、9年連続である。濵嶋が、いかなる条件の下でも狙った酒質を正確に形にできる、非常に高い技術を有していることは間違いないだろう。

そんな彼が、自身が考える理想の日本酒について語った。
「口に含んだ時に“あっ、うまいな”と感じられ、フワッと香りが口から鼻に抜け、喉を通るとスッと酒の残像が消えていく。こんな酒を飲みたいし、造りたいですね」。

蔵を清潔に保つ。スタッフたちの和を大切にする。米をしっかり磨く。麹は丁寧につくる。仕込みは低温でじっくり時間をかけて、といった基本的なことを守りながら、濵嶋は理想の酒造りに日々精進している。
「酒造りは決して一人ではできません。賞をもらうと杜氏ばかりもてはやされますが、蔵のみんなで獲ったものなんです」。

『盛田 無濾過吟醸 本生』は、濵嶋の理想を具現化した一本といってよい。飲み口はスッキリと軽やかで、舌の上で日本酒ならではの上質な旨味がしっかりと感じられる。落ち着いた香りで、一口飲むと次の一口がすぐに飲みたくなる。

「こんな酒を毎日の晩酌で飲めたら、最高ですよね」と、濵嶋は笑う。

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三人目

(取材日:2014年10月10日)

研究開発課 課長 伊藤智之

未来のために、酵母の研究を続ける人

2009年10月、盛田と名古屋大学、そして愛知県の産官学共同研究がスタートした。テーマは花酵母。名古屋大学構内に咲く八重桜から酵母を分離、小仕込み試験により「名大さくら酵母」を一株選定し、この花酵母から酒を醸した。「名大さくら酵母」と命名された日本酒が名古屋大学で発売されたのは2011年3月のこと。

「花酵母は、清酒酵母に比べて発酵力が弱く、アルコール分がなかなか上がってこないのが、難しいところでした。酒母から仕込みの初期の段階でこまめに温度調整をするなど、酵母の働きを助けることで、20日以上をかけて、どうにか12~13%ぐらいにまで高めることができました」と語るのは、このプロジェクトに当初から関わっている、研究開発課課長の伊藤智之だ。苦労の末にできた日本酒は、白ワインのような甘酸っぱさが感じられ、香りは華やか、アルコール分も控えめで、酒があまり強くない人でも美味しく、おしゃれに飲める酒として、大学生にも人気の商品となった。

2012年には酒質をさらにブラッシュアップさせた『なごみ桜』を発売。そして2013年3月、桜酵母のスウィートな純米酒として、『ねのひ なないろ桜』が全国発売された。

「今回のプロジェクトで、酵母に関する研究を集中的に行うことができたのは、非常に大きかったと思います。改めて清酒酵母のすごさを再認識することができました。今後、新しいタイプの日本酒を開発するために、酵母の研究はさらに深めていかなければならないと考えています」。

梅、カーネーション、いちじくなど、様々な花や果実から酵母を分離採集する。そして盛田では、松から酵母を分離することにも成功したという。松酵母が醸す酒。一体どんな味になるのか、楽しみである。


名古屋大学構内の八重桜の花
なないろ桜ホームページ
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